人間五十年下天のうちを比ぶれば夢幻の如くなり。◆追悼・栗本薫

ええと・・・ほんとすいません。痛いのは百も承知ですがこの方だけはいちクリエイターを遥かに超える特別な思い入れがあるので・・・また宝塚との縁もなくはなかった方ですし、相変わらず雑多な文ですが。途中は個人的な思い出なので、すっとばして最後の紹介だけ見てくださると嬉しいです。これだけ書いたら、とりあえずは気持ちが落ち着いたので、またヅカモードに戻りますね。




午後のラジオで、「中島梓さんが・・・」と訃報を伝えていたのを聴いた。
そうだ。作家・栗本薫の死(まるで現実感がない)は、評論家・エッセイスト・中島梓の死であり、ジャズピアニスト、脚本家、演出家、三味線奏者、料理研究家・着物愛好家・・・ありとあらゆる人の死でもあった。

小説家・栗本薫は、SF、ファンタジー、伝奇・時代小説、サイコホラー、ミステリー、耽美・・・ひとつのジャンルだけでも1シリーズで代表作になる作品を創作し続けた。
ずっと、ひとりの人間がこんなこと出来うる筈がないと思っていた。何人もの魂が、彼女の身体に宿っていたに違いない。普通のひとの何十倍もの密度で走っていたのだから、寿命だといわれても驚かなかったと思う。



「宝塚」にたどり着くまで、大概なオタク道を通ってきた私だ。
しかし世の中に名作は多数あれど、最も多感なティーンエイジ時代に触れた作家の影響は計り知れない。故・氷室冴子新井素子たち。そして栗本薫は、良い意味でも悪い意味でも私の精神の根幹に最大の影響を及ぼした人物であり、彼女なくしては今の私はありえない。きっとこののちも、生涯に渡って私の最大級の存在であり続けるだろう。

一度だけ、思い出がある。インターネットを始めた10年近く前、栗本氏がニフティサーブでパソコン通信の会議室を主催されていたころ。2月13日の誕生日を祝って、参加して初めてコメントを書き込んだら、本人からレスがついた(その時から私のハンドルネームはニケだった)。嬉しくて、緊張して、舞い上がった。今も昔も、創作者に対して直接メッセージを発信するということを滅多にやらない人間で、その後はほとんど眺める一方で、いつの間にかパソコン通信というものがなくなり、インターネットの台頭と共に会議室は終了した。
ライブや演劇のことを公式サイトで拝見するたび、いつか東京に観にいこうと思っていた。それも、今となっては夢だ。(ちなみにタカラヅカにも縁が深い方ではあるが、その頃は全くといっていいほど興味がなかった。昔の歌劇や星組本にも中島梓名義でエッセイを書かれている。)


ただ今は意外に冷静に受け止めている自分がいて、それは著書で病を知った時から、時間をかけて覚悟をしていたんだなと、今日感じた。一番ショックを受けたのは、作品のあとがきで病のことを知った時。ちょうど中日「メランコリック・ジゴロ」の千秋楽前の夜、サイゼリヤで夕食をとりながら、中日初日に名古屋で購入したグイン最新刊を読み終え、ショックをうけ、心臓はばくばくし、全身が震えて止まらなかったのを覚えている。ふとそうかグインはほんとうに「終わらない」小説になるんだなと思った。この人は良くも悪くもさらけだす人で、もう長くないということを感じて死をみつめながら書いているのがひしひしと伝わってきていたので(それは公式サイトの日記の状況をみても明らかで)、「その日」が来るのはそんなに遠いことではないと。

・・・もし、叶うのならば。彼女のいのちにこのちっぽけな生命をわけられるのならば。死ねといわれても厭いはしないだろうかと、あの時考えた。それほど、あの数多の小説達を愛していた。そして今日、「殉死」ということばがふいに頭に浮かんだ。今までそんな感覚はわからなかったが、死んだら辿り着けるのだろうかと、夢想した。無論死にたい訳じゃない。ただあの夢幻の世界を追いかけるにはどうしたらいいのかと白昼夢のように考えただけだ。結局のところそれは馬鹿馬鹿しい程に甘い夢で、ほんとうの死はそんなにきれいなものではなく、実際に死ねと云われたら、サムライでない私はジタバタと苦しみながら醜く抵抗するに違いない。でも、いつの日か、うつくしいものの為に生きて、死ぬという夢をみる臆病者の毎日を過ごすだけだ。

一個人としては相当あくの強い方だから受け付けない人も多かっただろうが、彼女の作品が私にとってただ単純にエンタテインメントとして面白かったというだけではなかったのは、この人のあらゆるジャンルのどの作品の根底にも流れている思想とか、というのか、生々流転してゆくものへの無常観、そういうものが限りなく私にフィットしたからだと思う。

「清濁併せ呑む」、そういう世界観が大好きだった。
穢れなき美の世界も、エログロも、歪んだ妄執や狂気も、なにもかもすべて、すべて生きていること。無常に生きているわたしたちのこと。正しいことも間違っていることもすべて受け入れてなお、愛することができるということ。愚かで、醜悪で、嫉妬と自己愛のあまり他人を傷つけてばかりの「人間」を。とても愛していたのだと。

だからいま。ほんとうは、清く正しく美しいだけではないタカラヅカを。
切ない駄作も、話題づくりのあれこれも、カネや欲望や愚かな面が垣間見えるような、とても「人間らしい」面をも含めて、パラノイアのように愛している、そう思う。

悪いところも良いところも影響を受けた、と先述した。幼いころからもっていた「大いなるもの」「選ばれしもの」といった強烈なヒーロー像、スター像への憧憬は、栗本薫作品によって確実に増幅されていった。そしてそれはそのままタカラヅカに求める「スター像」となっている。
興味のない外野から観れば一方的で気持ちの悪いイタさ、盲目的な信者としてみられかねないことは承知しているけれども。いまおもうのは、そのロマンがあるから、私は生かされてきたし、感謝してもし足りないほどの歓喜を与えてくれた。それが今後凶と出るか吉と出るか、人生夢想劇場に溺れて身を滅ぼすこともあり得るかもしれない、それは栗本氏曰く「ヤーン(神)のみぞ知る」というところか。

「うつしよは夢、夜の夢こそまこと」
・・・江戸川乱歩のその言葉を事ある毎に引用されていた。
"写し世"、現実世界と呼ばれるもののなんと儚いことか。
その儚いゆめまぼろしの世界をこそ、日本人は愛していたのではないか。

「人間五十年、下天のうちを比ぶれば、夢幻の如くなり」
仏教では、56億7千万年後、弥勒が下生して衆生を救うという。

哀しいかな我ら彷徨える衆生は遥かな未来を見通す目も持たず、自分が何の為にいま存在しているのかも知らず。たった半世紀。たかが1世紀。この地上で、塵芥(ちりあくた)のように、ただ騒いで逝くだけだ。

明日、核爆弾が落ちるかもしれない。1年後、隣人に殺されることもあるかもしれない。10年後、地震に巻き込まれるかもしれない。独りで老いて孤独死かもしれない。運よく、家族に見守られて大往生できるのかもしれない。

メメント・モリ、死を忘るるな。栗本薫は生涯ずっとそれを叫び続けていた。
短すぎる命の時間の中で死を見つめるならば、
争い続けるよりも、愛することを選ぶことが、出来はしないだろうか?



最後に・・・数百もの著作のなかで、「死」というもののビジョンを格調高く描いた傑作短編集を紹介したい。ほぼ絶版に近いので、オークションや古書店や図書館等で見つけたら是非手にとっていただければと思う。

「滅びの風」ハヤカワ文庫
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レイ・ブラッドベリの短編の題名でもある「おれたちは滅びてゆくのかもしれない」という言葉に集約されるテーマを持つ連作短編集。S-Fマガジン」誌に掲載されたSF作品4編と、書き下ろしの1編を収録して編纂され、1988年11月に早川書房より発行された。のち、1993年2月には文庫化され、 ハヤカワ文庫から発行された。

近未来の巨大都市で起こった大事故、真夜中の街中を走る戦車、若者の自殺、衝動殺人、核ミサイル、エイズなどをモチーフとして、滅びそのものではなく、滅びへと向かいつつある運命の予感をさまざまな角度から描いている。(リンク:Wikipedia「滅びの風」)



三界(この世)の狂人は狂うことを知らず
四生(生きとし生けるもの)の盲者は盲なることを識らず
生れ生れ生れ生れて生の始めに暗く
死に死に死に死んで死の終わりに冥し

合掌
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